(文化の扉)はじめての向田邦子 作家生活1年半、「昭和」を鮮やかに

(文化の扉)はじめての向田邦子 作家生活1年半、「昭和」を鮮やかに
2013年05月20日 12:25

まだ51歳だった作家・脚本家の向田(むこうだ)邦子(1929~81)が、
飛行機事故で世を去り32年。こまやかな筆遣いで昭和の暮らしを鮮やかに描いた。
今も関連出版やリメークが続く。
小林亜星が頑固おやじを演じたホームドラマ「寺内貫太郎一家」(1974年)。
この脚本をノベライズした作品が、向田の作家としての第一作。
ただ活字版はドラマの筋の途中で終わっており、これを書き継ぐ取り組みが続く。
執筆はフリー編集者の烏兎沼(うとぬま)佳代さん。
7月に「完本 寺内貫太郎一家」として新潮社から出版される。
河出書房新社は6月、「文藝別冊 向田邦子」を出版する。
単行本未収録だった高校生向けエッセーを載せ、角田光代や小池真理子が
向田の人気作品と同タイトルのエッセーを書く“競演”で読ませる。
編集者の東條律子さんは「作家として本格稼働したのは、亡くなる前の1年半とごく短い。
なのに今もたくさんの作品が残っている。
その奇跡のような現象に思いをはせられるようにつくっています」。

NHKで放映された「阿修羅のごとく」(79~80年)は今年、
荻野目慶子、浅野温子らにより舞台化された。
向田作品は毎年のように舞台や放送でリメークされる。
向田を若い頃から見守り続けた森繁久弥は早世を惜しみ、こんな言葉を残した。
「花ひらき はな香る 花こぼれ なほ薫る」
確かに、残された作品の存在感は大きい。
生前に出した本はエッセーを含め6冊と意外に少ないが、
直木賞受賞作を収録した小説集「思い出トランプ」(新潮社)と
初めてのエッセー集「父の詫び状」(文藝春秋)をはじめ、
文庫化されたロングセラー作品がたくさん残る。没後編まれたムック本や作品分析も数多い。

テレビの脚本を手がけだしたのは、東京タワーができた1958(昭和33)年。
昭和一ケタの感覚を研ぎ澄ませ、高度成長期に変わっていく世の中を見つめ、
3千本とも言われる脚本を紡ぎだした。
放送界での仕事の蓄積を、後年、作家としていかしたのだろう。
それにしても脚光を浴び続けるのはなぜか。
若い世代には中学の国語教科書に載っている「字のない葉書(はがき)」を
覚えている人も多いだろう。照れ屋の父はまだ字の書けない娘が学童疎開する時、
自分宛てのはがきの束を託す。
「元気な日はマルを書いて、毎日一枚ずつポストに入れなさい」と告げて。
戦中の家族像を描いた掌編だ。
昭和を描いた向田の感性は、戦争の影響ぬきに語れない。
この作品に描かれた向田の末妹でエッセイストの向田和子さん(74)は語る。
「物のない時代、姉は動員先でもらったわずかな乾燥バナナを
家族みんなに同じように分けた。それが当たり前にできる人だった」
分かちあおう、という人生観が作品の底に流れている。
「豊かな世の中になって久しいから、時に立ち止まって、邦子の作品にふれ、
何げない日常の大切さを感じてもらえたらうれしい。
東日本大震災が起きて、より一層、そう感じています」(木元健二)

■読む
22歳の頃の追憶をもとに、自分なりの物差しを持つことの大切さをつづったエッセー
「手袋をさがす」は「夜中の薔薇(ばら)」(講談社文庫)、
「字のない葉書(はがき)」は「眠る盃(さかづき)」(同)に収録されている。

■見る
パソコンなどで視聴できるNHKのオンデマンド放送では、
2011年に松下奈緒が主演した「胡桃(くるみ)の部屋」などが楽しめる。
TBSで放映された「寺内貫太郎一家」シリーズは、DVD化されている。

■訪ねる
向田の三十三回忌をしのぶ展示会が8月21~27日、
JR東京駅前の八重洲ブックセンターで開催予定。
鹿児島市のかごしま近代文学館では、たくさんの遺品を展示。自宅リビングも再現されている。

■共感誘う世界が魅力 NHKアナウンサー・有働由美子さん
40歳を過ぎ、向田邦子をしみじみと読むようになりました。
同じ年頃の友人もそれぞれの道に進んでしまい、愚痴をこぼしても始まらない。
そんな境遇に至ってから、独りゆっくりしたい時、作品に手が伸びるようになりました。
なかでも好きなのが「寺内貫太郎一家」ですね。テレビドラマはもちろんですが、
小説化された活字作品の思い出が深くて。おととし亡くなった母の病床で朗読したんです。
もう末期だったので、聞こえているかなぁ、と思ったら
「うちみたいな家庭あるんやね」とふと言われました。
わたしが育ったのも、貫太郎みたいな頑固な父がいて、母は黙ってついていって、
という昭和な家庭でしたから。
向田邦子の世界は「これ、ウチのことだ」と思わせる魅力に満ちています。
例えば湯飲みの置き方ひとつで伝わってくる感情。
淡々とでも深く、それぞれの生き方、暮らしぶりを尊重しながら描く。
実際のお人柄も情に厚いだけでなく、人との距離の取り方が絶妙なのでしょう。
ホンネを描きながら、私と違い、決してぶっちゃけない。
生きていらしたら、どうやっても会いたい。あこがれの人。

http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201305190288.html
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